BE WITH YOU





<2>




優の家族がこの世を去り、優はたったひとりこの世界に残された。
頼りになる親戚もいないらしい。
全くおれと同じ・・・これから遠くなるような時間をひとりで生きていかなければならない。
そんな優を、おれは放ってはおけず、卒業を機会に一緒に暮らし始めた。
おれの中の優の存在は、大きくなりつつあったけれど、その気持ちがまだ「好き」という感情に結びついてはいなかった。
それに、優への気持ちに素直になることに対し、ストップをかける別のおれがいた。



優はおれのことを姉の彼氏としか思っていないに違いない。
おれははるかの彼氏だったんだ。今さら優をだなんて・・・
それに・・・優は同じオトコだ。
オトコを好きになるなんて間違ってる。



特に、はるかへの罪悪感がどうしても消えない。
だからおれは優に何度も言った。





―――おまえははるかの弟だから―――





自分に言い聞かせるためのその言葉が、幾度となく優を傷つけていたなんて、おれはその時は知らなかった。








待ったをかける自分に反して、どんどんふくらむ優への想い。
一緒に暮らして、今まで知らなかった優を発見するたびに、胸が苦しくなる。
おれに笑いかける笑顔。
作った料理がおいしいかどうか、確かめるように不安げにおれを覗きこむ瞳。
そして、たまに見せる、淋しげな悲しい表情・・・・・・
そのたびに、ふれたくなる、この手で抱きしめたくなる、守ってやりたくなる。





これは・・・おれは優に恋してるのか・・・?
優は、オトコなのに・・・・・・?





そんなおれの想いがあふれてしまったのが、おれの母親の命日だった。
公園で、毎年のように思い出に浸りながら歌を口ずさんでいると、突然おれの胸に飛び込んできた優。
優のありったけの悲痛な叫びに、おれはあふれる想いを止めることができなかった。





優に淋しい想いは絶対させない・・・
優を守るのはおれしかいない・・・

ひとりになんてしない・・・・・・

同性だなんて関係ない・・・・・・
おれは・・・優が好きだ・・・・・・








そしてクリスマスイブの夜、優を初めて路上ライブに誘った。
イブの夜は、ほんのひとときだって離れたくなかったから。
それに、おれの歌を聞いて欲しかったから。
クリスマスイブの甘い雰囲気と、冷たくなったおれの手を優しくさする優の優しさ。
お互いのプレゼントが同じものであったという偶然。
優の澄んだ瞳に映るおれ、おれの瞳に映る優。
そんなおれの周りにあるすべてのことが、封印していたおれの優への想いを解き放ち、たまらなく優が愛しくて、抱きしめ、キスをした。
優は突然の出来事に驚いたようだったが、抵抗することなく、おとなしくおれの腕に抱かれていた。





しかし、はるかが、優の家族が亡くなってから、まだ一年も経っていない。
おれは、一周忌に、許しをもらいに行くことに決めた。
その日まで待つ自信はあったのだ。
それがどんなに難しくつらいことか、まだ優にさほどふれていなかったおれはわかっていなかった。
イブの夜、優をこの腕に抱いてしまったおれの心を、優をおれのものにしてしまいたい・・・
そんな醜い欲求ばかりが支配し始めた。
優と顔を合わすたび、もう一度あのくちびるに、身体にふれたくなる。
身体が熱くなり、爆発しそうになる。
そんなおれが取った行動は・・・優から一時的に逃れることだった。
しかも、こんな浅ましく汚い心を優に知られたくないがために、何も告げずに・・・・・・





おれは、優の全身全霊を込めた懇願をも無視した。
自分が苦しみから逃れるために・・・
しかも、おれにとっては、一時的に離れるという感覚だったため、そんなにつらい別れでもなかった。
一周忌が終われば、おれの心は優のもの・・・そればかり考えていた。
おれは知らなかった。
優の中のおれの存在が、そんなに大きなものだったなんて。
おれの、この軽はずみな行動が、優に生きる意味をも失わせてしまうなんて。








この地方では珍しい雪が、優の身体をうっすら包み込んでいるのを発見した時、おれは一瞬頭が真っ白になった。





なぜ?優が・・・?





優を抱き起こし名前を連呼するおれに届いた、ほとんど聞き取れないほどのか細い声・・・・・・





―――もう・・・いや・・・・・―――





何が嫌なんだ?もう生きていくのが嫌なのか・・・?
それとも、もうおれのことが嫌なのか・・・?
クリスマスイブの日、心が通い合ったと思っていたのに・・・・・・
氷のように冷たい頬をさすりながら、混乱する思考の中で、目の前の眠れる家族に祈る。





おやじさん、おふくろさんっ!
優をどうかおれのそばに!一生守って行きますから!
もう絶対に悲しませたりしませんから!




はるか!
おれがそちらの世界に行ったときには、おまえの恨み言を全部聞いてやるから、優をつれていかないでくれ!



優、おれを置いていくなっ!優っ!






発見が早かったため、優は助かった。
そこで、おれは、優の本心を知った。
おれが、優の中にはるかを見ていると思っていたこと。
そして、ずっと前から、おれがはるかと付き合っているときから、おれのことを好きだったこと。
その事実におれはやはり・・・と思った。
優は、おれとはるかを目の当たりにして、相当苦しんだに違いない。
思い当たる節はいくつもあるし、おれにはそれに気づいていた時期があったのだから・・・
その予感は、空港での優の一言で疑心に変わっていたのだが。



おれのことを避けるようになった優。
夜道でおれにもう家に来ないでと叫んだ優。
そして突然留学を決めた優。
空港で、真っ直ぐおれを見つめ、さよならと言った優。
そして今、それでも姉のことは大好きで、憎むことなんてできないと言う優。
こんなに優を苦しめてばっかりのおれのことが・・・好きだという優。



いつも自分の気持ちを押し殺し、人の幸せばかりを願う優が、おれに正直な心を打ち明けた。
それは、優の・・・魂の叫びだった。





ぼくを置いていかないで・・・もうひとりぼっちはいやです・・・





その時、おれは神に誓った。
金輪際、優を悲しませたりしない、淋しい思いはさせない、ひとりぼっちにしない・・・・
ずっと一緒に生きていく・・・何があろうとも・・・・・・





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